研究概要 |
子宮内膜症(内膜症)組織の細胞増殖制御機序を考案することを目的に、内膜症組織および正常子宮内膜における細胞増殖能を比較検討するため、婦人科手術摘出材料において、内膜症組織および同一症例の摘出子宮内膜のうち正常部の組織を用いて、性ステロイドホルモン受容体であるestrogen receptor (ER), progesterone receptor (PR)および細胞周期中の細胞に発現する増殖細胞マーカーKi-67, Proliferating cell Nuclear Antigen (PCNA)やG1期のcell cycleの中で細胞増殖に関連して動くサイクリン・ファミリー物質であるcyclin (cyclin E, cyclin A, cyclin B), cyclin-dependent kinase (CDK)(cdk2, cdk4, cdc2),ならびに腫瘍抑制遺伝子産物p53の発現を月経周期ごとに免疫組織学的に検討した。 正常内膜では性周期の増殖期でER, PRが発現し分泌期でその発現低下が見られ、性周期の推移による周期的な変化を認めるとともに、p53の発現を認めなかった。一方、内膜症組織では性周期の変化に関係なくER, PRの発現が見られp53の発現も観察されなかったが、一部の内膜症組織にはその腺上皮細胞でER, PRの発現が認められなかったのと同時に、同部位に散在性にp53の発現を認めた。Ki-67, PCNA, cyclin, CDKの発現は子宮内膜、内膜症組織ともに認められたが、特に分泌期においては有意に内膜症組織における発現が子宮内膜における発現よりも高かった。 子宮内膜症は子宮内腔に由来する子宮内膜に類似した組織であると見なされているが、子宮内膜とは異なった生物学的性格、特に細胞増殖制御機序においては、子宮内膜よりも高い増殖能や卵巣性ステロイドによる周期的な制御から逸脱した増殖機序を有する組織、すなわち腫瘍性性格を有する可能性のある組織であると考えられた。さらに、内膜症組織におけるp53の発現とそれに関係したER, PRの消失は組織の悪性化過程に関与しているのではないかと思われた。
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