研究概要 |
本研究の目的は正所性子宮内膜組織mRNAを用いたdifferential display法(Science 257:967,1992)で、子宮内膜症特異遺伝子cDNA断片をクローニングすることであった。この研究を計画した背景にはふたつの大前提が必要である。すなわち、1)子宮内膜症患者と正常婦人の正所性子宮内膜組織には明らかにその発現遺伝子群に差が存在しているということ、2)differential display法による遺伝子クローニング法の再現性が高いこと、の2点である。今回の研究では、研究の途中でこのふたつの大前提に研究前には予想していなかった問題点が見い出され、研究方向の転換を余儀なくされた。その問題点とは、1)については、子宮内膜症患者と正常婦人の正所性子宮内膜組織には確かに細胞生物学的な差が見い出されたが(Tanaka,Umesaki,Ogita et al.投稿中;田中、梅咲、荻田ら:エンドメトリオージス研究会誌1997)、安定した遺伝子発現の異常とは捕えられなかった。これは、一見健常とみられる女性にも少なからず子宮内膜症の小病変が認められること、子宮内膜症の重症度により二次的な刺激効果が加わっているため遺伝子発現にも安定した変異がdifferential display法では検出困難であったことなどに原因している。2)については、当初我々は参考論文にしたがってrandom 12merをPCR primerとして応用していたが、途中経過報告書にも述べたように微量の混入cDNA断片が増幅されたり、再現性の少ないcDNA断片がスクリーニングされてくることが予想外に多かった。このdifferential display法が報告された当時は画期的な遺伝子クローニング法として各研究方面に試みられ、我々も採用した。しかし、実際にこの方法で遺伝子クローニングに成功したという報告は殆どない。differential display法は最近多くの研究室で応用されており、様々な問題点とそれに対する改良法も発表されており、我々もこの改良法に準じて変更を行ったが不成功に終わった。 今回の研究を進めて行くうちに、differental display法によるcDNAクローニングにいくつかの難題が見いだされたため、子宮内膜症に特有の遺伝子変異を明確にするために細胞生物学的な解析も行った。2方向からその解析を行い、1)子宮内膜症患者血清中に検出される抗子宮内膜抗体の特異性と生物活性(Mizuno,Umesaki,Ogita et al.JSRI in press,1997;Mizuno,Umesake,Ogita et al.投稿準備中)、2)子宮内膜症患者と正常婦人から樹立した長期培養正所性子宮内膜組織の細胞学的性状(田中、梅咲、荻田ら,エンドメトリオージス研究会誌,1997;Tanaka,Umesaki,Ogita et al.投稿準備中)、について内膜症特異遺伝子クローニングのための別の足掛りを得た。これらに関しては、現在も解析中にある。
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