研究概要 |
ケラチノサイトは,形態的には基底細胞から有棘細胞,顆粒細胞,角化細胞へと分化して死に至る.しかし,その分化過程の制御機構については,ほとんど不明である.そこで,分化過程における制御遺伝子を検出することを目的として,それぞれの分化過程の細胞を細胞表面抗原に対する特異的モノクローナル抗体を用いて分離し,発現遺伝子のdifferential displayを行った.しかし,分化制御遺伝子を見出すには至らなかった. 近年,皮膚ケラチノサイトの増殖と分化においてstem cell,transit-amplifying cell,committed cellの過程を経て最終分化に至る概念が,Wattらによって提唱された.また,リンパ球の分化の過程が一連のアポトーシス遺伝子によっても制御されていることが報告されている.そこで,口腔粘膜上皮についても細胞の生と死に注目してその関連遺伝子を免疫組織学的に検索を行った.その結果,粘膜上皮のケラチノサイトの増殖と分化の過程において,基底細胞ではbcl-2,基底層よりさらに1〜2上層にbrdUやPCNA陽性細胞,基底細胞層と有棘層下部でのbcl-XLそして有棘層上部ではbaxが発現していた.最終的には,有棘細胞層の上層から角質層直下においてDNAの断片化が観察され,アポトーシスにより死に至ることが示された.この結果は,in vitroの分化を誘導した実験系においても再現された.また,bcl-2の発現遺伝子を用いた実験系において,bcl-2の過剰発現がケラチノサイトの分化を抑制することを示した.以上の結果は,ケラチノサイトの最終分化が,プログラム細胞死の一つであり,bcl-2等のアポトーシス関連遺伝子の発現と深く関与していることを示唆するものであった.
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