研究概要 |
スズメバチ毒ペプチド・マストパランは,血管や腹腔の内皮マスト細胞に作用してそのヒスタミン顆粒を脱顆粒させる毒性を持っているが,その標的分子は細胞膜中に存在するGTP結合性制御タンパク質(いわゆるGタンパク質)であることが知られている.しかし,我々はDアミノ酸から成るマストパランの光学鏡像体であってもマスト細胞を脱顆粒させる作用を有することを見出している.そこで,タンパク質によるマストパランおよびその鏡像体の認識機構について構造化学的に検討することにした.膜タンパク質であるGタンパク質を直接取り扱うことは難しいので,本研究では,まず,マストパランと細胞質酵素であるカルモデュリンとの相互作用を検討した.1.光学鏡像体は、マストパラン自身と同じくカルモデュリンに強く結合してカルモデュリンの制御活性を競合的に阻害することが明らかになった.2.しかし,トリプシンによる消化過程や芳香族領域の^1H-NMRスペクトルの変化などから,光学鏡像体はもとのマストパランとはカルモデュリン上の異なる位置に結合していると考えられた.そこで,NMRによる詳しい解析を行ったところ,マストパラン自身がカルモデュリン中央の長いヘリックス上にN,C両ドメインを橋架けするように結合しているのに対し,光学鏡像体はC端側のドメインのみに結合していることが判明した.3.この結合様式の違いにより,マストパランが結合した状態では見られたN,C両ドメイン間のCa^<2+>結合の共同性は見られなくなった.これらの結果は,結果的に同じような阻害活性を示すアナログであっても,またカルモデュリンのような汎用性のある酵素であっても,かなり細かな認識機構が存在し,それをカルモデュリン自身がCa^<2+>依存的な制御活性に反映させていることを示してる.
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