研究概要 |
本研究課題は高圧下でのX線溶液散乱技術の開発とその蛋白質測定への応用の2つの目的がある.技術の開発では,バックアップ・リングのデザインおよび材質改良およびピストン部の機構の改良により,5000気圧までの高圧下で温度可変の実験を可能とした。蛋白質測定では,まずは,リゾチームを用いて,変性を引き起こさない圧力範囲での蛋白質の回転半径に及ぼす圧力効果の測定を行った。リゾチームの回転半径は1気圧の時,14.85Å,3000気圧の時14.46Åとなった。3000気圧の加圧により回転半径は,0.39Åの減少,1000気圧当たり0.13Åの減少となる。X線結晶構造解析の結果は,1000気圧の加圧で,0.04Åの減少であり,我々の結果と著しい違いが見られた。次に,ミオグロビンを用いて圧力変性変性実験を行った。これにより,酸性条件下でミオグロビンの回転半径は2000気圧を境に17.5Åから21.5Åへ変化するのを確認した。高圧変性時の回転半径、21.5Åはすでに報告されている変性剤変性の時の約30Åに比べきわめて小さく、モルテン・グローブル状態時の値に近い。変性の可逆性等の課題はあるが,今回世界で初めて圧力変性をX線散乱法で観測することに成功した。さらに,SAXS実験との比較や,サンプル探索のために,FT-IR分光法を用いた圧力効果の実験を行った。ミオグロビンを用いた実験では,2次構造の変化とSAXSで得られた回転半径の変化の挙動はほぼ等しいことが確認できた。β-ラクトグロブリンの高圧FT-IR測定では,2次構造の完全な可逆的破壊を観測することができた。完全な可逆性を示したβ-ラクトグロブリンを用いた実験により,詳細な構造化学的研究が行えることが期待できる。現在,β-ラクトグロブリンの高圧SAXS測定を計画中である。
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