研究概要 |
決定論的カオスの側面から不規則時系列信号を捉える「カオス時系列解析」において,最も重要かつ基本的な解析過程となる,観測時系列信号からのアトラクタの再構成において,「実データを解析する際に,どのように時間遅れ値を設定すべきか」について解析した. まず始めに,アトラクタの再構成における数学的基盤であるTakensの埋め込み定理について延べ,本研究の基盤となる埋め込み定理を実験データに適用する際に問題となる点を明らかにした.また,時間遅れ座標系を用いる際の時間遅れの設定法について,現段階で提案されている手法を徹底的にサーベイし,これらを時間相関の観点から基準を設定する手法と,再構成後のアトラクタの幾何学的形状に着目する基準に大別した. 以上の成果を受けて,本研究では,観測時系列信号の高次統計量に着目することにより,従来の時間相関の観点から基準を設定する手法を大きく凌駕する新しい基準を提案した.具体的には,解析対象時系列信号より推定される,高次モーメント及び高次キュムラントより,新たに高次自己相関係数と呼ぶ量を定義し,この高次自己相関係数の次数を増加させることで,各次数の自己相関係数を算出し,これらが極値をとるの第一時相と次数との関係を抽出した際の収束値を時間遅れ値とする手法を開発した.この基準を用いれば,定性的には,そのアトラクタ形状が全状態変数が観測できる場合と類似の形状を示すこと,また,定量的にも非線形統計量が元のアトラクタより推定される場合に最も近付くことを明らかにした.最後に,本研究で提案する新しい時間遅れ値の設定法を,従来提案されてきたいくつかの基準により得られる結果と比較検討し,本研究で提案する手法が優れていることも明らかにした.
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