研究概要 |
異水塊の交換がある温帯域の内湾における渦鞭毛虫プランクトンの自生性・他生性の基盤はシストを湾内で形成するか否かにかかっていると考えて,栄養細胞(プランクトン)・海底泥中シスト・表層で形成されて沈降するシストをそれぞれ採集し検鏡した。調査海域は南三陸の女川湾である。本湾には87種の渦鞭毛虫が出現し,そのうち57種はシストを形成しない種であった。それらの種の季節消長は水塊の交代に主に支配されており,明らかに他生性であると認められた。一方,シスト形成種は26種であったが,それらは周年に亘ってシストが発芽する種群と,発芽に明らかな季節性がある種群とに区別できた。前群のうち暖水期に繁栄する種は光合成種であり,なかでもScrippsiella trochoideaは優占度が大きい種であった。この種は明らかに女川湾の自生種であるが,シストの発芽期間が長いという特性を有している。寒冷期にもシストは少数発芽し,水柱中には栄養細胞が常在するので,他種に先がけて暖水期に卓越することが明らかになった。
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