研究概要 |
光加入者系や光インターコネクトなど新世代光通信に対して,低電力,高効率,大量一括生産できる半導体レーザが要望されている.本研究ではこれらの要求を同時に満たす新しい構造として,モノリシック形成が可能な垂直多重反射鏡をもつ短共振器レーザの提案と試作を行った.この反射鏡は半導体と空気をペアとする多層膜と等価であり,少ないペア数でも99%以上の高反射率が得られ,短共振器化,低しきい値発振が可能になる.具体的には,光ファイバ通信波長帯のGaInAsP/InP圧縮歪量子井戸を発光材料と仮定したとき,共振器長を20μm以下に短縮することで100μA程度の超低しきい値が可能になることが理論的に明らかとなった.この共振器の形成法として,電子ビーム描画法と反応性イオンビームエッチング法の条件を最適化した.そして多重反射鏡の3回折条件となる半導体線幅0.3μmの反射鏡が実現された.試作したレーザを評価したところ,共振器長100μmのとき規格化しきい値電流2.6mA/μmにて発振を確認した.理論値との比較より,反射鏡の実効反射率は約60%であった.これは回折損失を考慮した理論反射率約80%よりやや低いが,これは反射鏡側壁の約20nmの荒れによる光散乱が主な原因と考えられる.また反射鏡枚数の異なる素子で性能比較を行った結果,枚数が増えるごとに単純に性能は向上することが確認された.次に3次回折設計から空気層のみを1次設計に変更することで回折損失が抑えられて95%の実効反射率が得られること,逆に半導体と空気の両方を1次設計としても効果は無いことがわかった.ただし空気層1次設計はサブμmオーダーの極めて鋭利な半導体加工技術が必要になる.塩素系反応性イオンビームエッチング法を用いてこの加工を試したところ,ビームの加速電圧を上げることで2次設計までは可能になること,この方法では1次設計は困難なことがわかった.今後,化学支援イオンビームエッチングなどエッチング効果が高く平滑性に優れた方法を利用することで,空気1次設計が可能になり本レーザの性能が大幅に向上すること,レーザ自体の高性能化だけでなく,光検出器や変調記など様々な素子の簡易集積化にも役立つ技術になることを期待する.
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