研究概要 |
哺乳動物の、吸啜から咀嚼への変換メカニズムを解明する目的で、咀嚼の神経性制御に重要な歯根膜内機械受容器であるルフイニ神経終末の生後発達過程を免疫組織化学的・微細構造学的に検討した。試料は、生後1,4日(切歯未萌出),7-11日(切歯萌出期),15日(切歯咬合開始期),25日(臼歯咬合開始期),80日(機能咬合期)のWistar系ラットの上顎切歯部を用い、PGP9.5の免疫染色を行った上で、舌側歯根膜を光顕で観察し、その後、通法に従い超薄切片を作成、電子顕微鏡にて観察した。一部の超薄切片には、タンニン酸-ウラン-鉛の三重染色を施し、軸索終末と周囲の膠原線維との関係を観察した。その結果、次のような所見を得た。(1)光顕的にルフイニ神経終末様の形態をもつ終末を認めたのは切歯萌出期だったが、微細構造学的には、機械受容器の形態学的特徴である複数のシュワン鞘に被覆された軸索終末は生後4日にすでに認められた。(2)成熟ルフイニ神経終末では、軸索末端部の微細な原形質突起axonal spineが歯根膜線維の変形を関知するといわれているが、このaxonal spineは切歯萌出期に初めて出現し、その後日齢の増加とともに、数の著しい増加・伸長・複雑化を示した。(3)幼弱ルフイニ神経終末では、axonal spineの基部に大小さまざまなvesicleが多数認められたが、切歯咬合開始期以降、漸次その数を減じた。(4)ルフイニ神経終末の軸索末端部には豊富なミトコンドリアが存在するが、これは切歯咬合開始期から数の増加・長大化を示した。(5)axonal spineは、歯根膜線維と直接接触することはなく、その間に基底膜様の層が存在していた。また、この基底膜様構造は切歯咬合開始期頃から明瞭に観察されるようになり、徐々に肥厚・多層化していった。以上のように、ルフイニ神経終末は、切歯萌出期から咬合期にかけて急激な分化を遂げ、その機能に重要と思われる微細構造学的特徴を完成させていくことが明らかとなった。
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