16枚の全体顔写真を用いて一対比較法による類似性判断実験を行った。実験結果を、同じ顔の内側部分を用いた同様の類似性判断実験の結果と比較検討した。内側部分顔での類似性判断実験では、比較的少数の顔の物理的測度によって類似性判断結果を説明できることが報告されていた。全体顔を用いた今回の実験においても、INDSCAL解の第1軸が5変数で84%、第2軸が5変数で90%、第3軸が5変数で95%説明できるなど、内側部分顔と場合と同様に、比較的少数の物理的測度によって類似性判断結果を説明することができた。各軸を説明する具体的な物理的測度は、内側部分顔と全体顔とで必ずしも一致していないが、第1軸では眉や目にかかわる物理的測度が、第2軸では鼻や口にかかわる物理的測度が、第3軸では顔のさまざまな部品にかかわる物理的測度が主として含まれていることは、両類似性判断実験で一致している。今回の研究結果から、顔の類似性判断の結果が比較的少数の物理的測度によって説明可能であることは、比較的安定した知見であるといえる。 一対比較法による類似性判断では被験者への負担から比較的少数の刺激顔しか用いることができないという難点の克服としては、類似した顔同士のグループ分けを被験者に求め、同一グループに分類された頻度データから刺激顔の類似性空間布置を求める方法が考えられる。この方法では比較的多数の刺激顔を用いることが可能であるが、INDSCAL解のように類似性空間の軸が固定しないといった問題が生じる。空間軸を一義的に決定する方法として、MDSによる各顔の空間座標値について、主成分分析を行うことが提案された。主成分分析によって決定された軸が、被験者の類似性判断の基準を表すものとして心理学的に意味を持つのかについては、今後の検討が必要である。
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