1 判決文に現われた法的思考と解釈論とをつなぐ、具体的問題としては、消滅時効と除斥期間の関係という古典的な問題を選び、そのなかでも、民法724条後段の期間制限に関する裁判例も網羅的かつ集中的に、判決文の視点から検討した。その結果、 (1)右期間制限の性質、つまり、それを消滅時効と解するか、除斥期間と解するか、という点については、裁判例は相半ばしている(最判平成元年12月21日民集43巻12号2209頁は、これを除斥期間とするが、学説の批判が強い)。 (2)ところが、判決文の視点から見るとき、ほとんどの裁判例は、期間制限を理由に、実体的審理に立ち入ることなく、請求を棄却しており、これは右期間を消滅時効と解するか、除斥期間と解するかにかかわりがない。 (3)(2)の特徴は、通常の消滅時効では見られないものである(普通、裁判所は実体的審理を行った後、時効を持ち出す傾向にあることは、星野英一「時効に関する覚書」民法論集第4巻(昭和53年)167頁以下で実証されている)、 との検討結果が得られた。ここから、右期間制限の性質を直接導き出すなら、飛躍があるが、通常の消滅時効との扱いの違いは明確にできたので、次に除斥期間込められている趣旨の析出を通じて、右傾向を解釈論に活かすための手掛かりは十分得られた。 2 なお、かかる考察については、裁判官及び検事並びに弁護士との共同研究会である、札幌民事実務研究会において報告する機会を与えられ、724条の特徴はもとより、裁判実務での取り扱いや発想方法について多くの教示を得た。 3 今後も、判決文という実体のあるものを素材に、より考察領域を拡大し、法的思考の特質を検討していきたい。
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