本稿ではVaga(1991)が提唱した非線形統計モデルを1980年1月5日から1992年4月30日の証券取引営業日2828日間で取り引きされた全銘柄(1352銘柄)の日次データにおける収益率の分布に当てはめた。その結果、株式市場が中立的なrandom walkを基調としながらも豊かな動態的多様性を持っている事が明らかにされた。特に、'90年代に頻繁に出現しているCoherenr Marketの存在の確認は、Vaga自身非常に不満足な形でしか行っておらず、非常に重要な発見である。また、いわゆる"バブル"期は基調として中立的なrandom walk、時にはカオス的な市場であり、"バブル"期を強気なCoherent Marketと見る通説的な見方は妥当でない事が明らかにされた。むしろCoherent Marketは、いわゆる"バブル"崩壊後、典型的には弱気なCoherent Marketとして出現している。つまり、これからどこまで落ちるか分からないという集団思考が市場を支配していたという事になると思われる。
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