本研究の目的は、近年新たに注目を浴びているデータベース・パラダイムであるオブジェクト指向モデルを会計情報システムの構築に応用した場合、どのような有用性があるかを検証することにあった。まずその準備段階として、研究室に設置された複数台のコンピュータをネットワークで接続し、擬似的なネットワーク環境を構築することから始めることとなった。事象会計報告システムは、ネットワーク環境下における会計情報の伝達の問題を解決しなければ実現不可能であるため、とりわけネットワーク環境下における検証が重要だからである。次に、アメリカSECのEDGARシステムで採用されているSGML技術を応用したHTML言語による財務諸表の記述を試み、これをネットワークに接続された各コンピュータ上から参照できる環境を整えた。現在既にいくつかの企業がインターネット上で会計情報の提供をおこなっているが、ネットワーク環境を整備することによって完全にシミュレートすることが可能となった。 ネットワーク環境下において会計情報の伝達は、従来のような単なる一方向的なものだけでなく、双方向的なやりとりが可能である。つまり、ネットワーク環境下においては、事象アプローチが提唱したような情報利用者の意思決定ルールに基づく会計情報を提供することが可能となる。これは従来の有価証券報告書を中心とする会計情報の伝達手段では不可能であった。そこで、利用者側から一定の指示を与えることによってさまざまな会計情報を取り出すことができるような仕組みを新たに作る必要性を認識することとなった。この問題を解決するための一つの方策としては、会計情報を記述する際に用いたSGML技術を積極的に援用し、さまざまな情報を取り出すことが可能となるようなDTD(Document Type Definition)を開発することである、との結論に至った。
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