本年度研究は、ウェーブレット解析におけるフーリエ解析的定式化に関する研究を基礎及び応用の両面から試みた。基礎的研究としては、従来フーリエ解析において成立する重要な結果のウェーブレット解析版を作製することを行った。また応用的研究としては、従来フーリエ解析を用いて行われていた工学的手法をウェーブレット解析により置き換えることにより更なる改良を試みたものである。 (1).積分核作用素のスペクトル分解定理に対するウェーブレット解析版(Reports on Mathematical Physics vol.36(1995)掲載) 積分核方程式に関する根の分布状況などを調査するために、積分核関数をフーリエ変換して得られるスペクトル分布関数もしくはスペクトル密度関数の拡散状況が重要な役割を持つが、ここではフーリエ変換の代わりにウェーブレット変換を用いて得られるスペクトルを調査することにより、根の個数分布状況などを、直接スペクトル関数から調査できる手法を示した。 (2).自然言語による日常会話に関する情報伝達速度の比較(Open Systems and Information Dynamics掲載予定) 日本語、英語、ドイツ語などを用いて、同一の内容を音声にして朗読した時に得られる音声系列のスペクトル信号を調べ、情報の伝達速度の速さ及び聞き取りにくさなどをスペクトル関数の視点から定量的に評価する方法を示した。更にこの方法において用いられているフーリエ・スペクトルをウェーブレット・スペクトルにより置き換えることにより、従来のフーリエ解析的手法では判別出来なかった聞き取りにくい箇所を、ウェーブレット・スペクトル密度関数の形状から読みとれるような手法を示した。
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