本研究の目的は「フラクタル領域上の解析学」の基礎を確立することにあった。例えばフラクタル領域上で波動や拡散などの物理現象を記述するためには、その上でのラプラシアンを定義しなければならない。しかしながらフラクタル領域上では一般に“関数の微分"を考えることができない。近年少しずつ研究が進展してきたがいまだ手探りの状態にあるフラクタル上での解析学にたいして特に次の2つの問題に重点を置いて研究をおこなった。 (1)post critically finite self-similar set上でのHarmonic Structureの存在とその一意性の問題 この問題がある種の有限次元の非線形力学系の不動点の存在と一意性に帰着されることは従来から知られていた。本研究では、この非線形力学系の相空間に自然な順序が導入でき、この力学系によってその順序が保存されることを明らかにした。さらにこの性質を用いて力学系の構造を調べて、Harmonic Structureの存在とその一意性および安定性についての十分条件を導くことに成功した。 (2)post critically finite self-similar set上のラプラシアンの固有値の漸近挙動 post critically finite self-similar set上のラプラシアンは多くの場所局所化された固有関数を持つことがしられていた。本研究では固有値のcounting functionをこの局所化された固有関数にたいする固有値のcounting functionと残りの固有値(すなわち局所化されていない固有関数に対応する固有値)のcounting functionの和として表現することを提案した。そしてそれぞれの部分の漸近挙動を調べて、たとえば、局所化された固有関数に対応する固有値のcounting functionの漸近挙動を詳細に記述することに成功した。またとくにSier pinski gasketと呼ばれる具体例にたいしては両方のcounting functionの漸近挙動を完全に決定した。
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