銅酸化物高温超伝導体の超伝導ギャップの対称性と大きさは、それぞれ超伝導をもたらす電子間引力の対称性と超伝導電子対の凝集エネルギーに直接関係する。このため、両者は超伝導発現機構を考える上で不可欠な情報であり、現在多くの測定手段により精力的に調べられている。比熱測定はマクロな実験手段であるが、系の低エネルギー励起スペクトルを調べることができる有力な実験方法の一つである。 申請者は、ランタン系銅酸化物において様々なホール濃度で、精密に比熱測定を行い、超伝導状態の電子比熱が温度の2乗に比例することを見出した。さらに、この温度の2乗に比例する電子比熱が超伝導に本質的なものであることを不純物効果から確認した。これらの結果は、超伝導ギャップの対称性がd波であることを意味する。また、この電子比熱の大きさから、様々なホール濃度での超伝導ギャップの大きさを定量的に求め、(1)超伝導転移温度Tcが高いホール濃度0.16付近では超伝導が強結合領域にありTcが低くなる高ホール濃度領域では超伝導が弱結合領域にあること、(2)超伝導ギャップの大きさが、磁化率がピークを示す温度とほぼ一致すること、を報告した。これまで、広いホール濃度領域にわたって超伝導ギャップの大きさを定量的に求めた報告はなく、我々の報告が少なくともランタン系銅酸化物では最初と思われる。
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