研究概要 |
空間に孤立した中性原子の光電離過程は、物質における最も基本的な光学過程の一つであり、その研究は電磁波と物質との相互作用を原理的に理解する上で大きな意義がある。自由原子の光電離過程を定量的に把握するためには光電離断面積の絶対値を知ることが重要であるが、測定に様々な困難が伴うために精度の高いデータの数が少ない。特に、高い電子状態に励起された原子については、断面積を測定する方法さえ殆ど確立されていない。この様な背景の下に、本研究は励起原子の光電離断面積の絶対値の精密測定を試み、精度の高いデータを獲得することを目的として行った。測定は電子構造が簡単で、また、物理的に興味深い性質を持つことからアルカリ金属のセシウムを対象とした。 まず、本研究室の備品である既存の真空装置を、励起原子の光電離断面積の測定実験に用いるために改良し、性能試験を行った。続いて、真空装置を用いてセシウムのレーザー分光実験を行い、電子励起準位のエネルギー値、寿命、等の精密測定を行った。更に、これらの分光データを基に、励起セシウム原子のイオン化断面積の測定実験を行った。実験は、当研究室で使用可能なレーザーの波長や強度等の制限から、申請者が考案した手法ではなく、従来法の一つを用いて行った。測定は7D_<3/2,5/2>励起準位及び8D_<3/2,5/2>励起準位の4準位についておこない、精度の高いデータを獲得することに成功した。これらの準位に関する光電離断面積は1つの準位を除いて報告されていない点、微細構造の電離断面積の精密測定に成功した点、及び主量子数の異なる準位の断面積の測定に成功した点で、本研究は極めて意義深い。なお、現在研究結果を発表すべく論文を執筆中である。
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