研究概要 |
当該研究は、硬い骨格構造をもつ光学活性大環状ポリアミンの金属錯体を系統的に合成し、それらの構造解析、および分光学的、磁気的性質を明らかにすることを目的として始めた。ピペラジン環を含む光学活性な18員環ポリアミン(2S,8S,11S,17S)-2,8,11,17-tetraisobutyl-1,4,7,10,13,16-hexaazatricyclo[14,.2.2.2^<7,10>]docosaneはN,N′-エチレン架橋-(S)-ロイシル-(S)-ロイシンとグリシンを構成単位とした大環状擬ペプチドの全てのアミド基をジボランで還元して得た。そのリガンドは脂溶性に富み、シリカゲル、および活性アルミナカラムを用いると高純度で精製できた。このB_2-[18]-aneN_6型大環状ポリアミンのCu(II)錯体は塩素イオンと水酸化物イオンで架橋された複核錯体であり、それぞれのCu(II)イオンにピペラジン環の二つの三級窒素と一つの二級窒素が配位していることがX-線結晶構造解析により明らかになった。ピペラジン環を含まない18員環ポリアミンが金属イオンと錯形成すると単核構造をとるのに対し、ピペラジン環と光学活性な骨格構造で形成されるラグビ-ボール状の空孔は複核構造をとるのに適していることがわかる。架橋しているこの塩素イオンは銀塩として取り除くことができ、塩素が架橋した錯体と、そうでない錯体について磁気的性質をESR、SQUIDを用いて詳細に調べ、それらの構造変化を推定した。また、グリシンの代わりにβ-アラニンをリンカーとして用いた大環状擬ペプチドからは炭素数が二つ多い20員環ポリアミンが効率よく合成でき、さらにその複核銅(II)錯体を得た。構造解析はまだできていないが、Cu(II)-Cu(II)間距離が18員環ポリアミンの錯体より長い錯体が得られていると思われる。このように原料となるアミノ酸を工夫することで異なるサイズのキラルな大環状ポリアミン、およびそれらの複核銅錯体が得られることを明らかにした。以上の結果は今のところ三つの論文にまとめ報告した。
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