研究概要 |
代表的なπ電子系化合物であるシス-スチルベンの通常の光反応ではシス-トランス異性化と同時に分子内閉環反応が生起することが知られているが、この系に対して非共鳴2光子励起を適用したところ、高選択的にシス-トランス異性化反応のみが生起することを見出した。また、σ共役系化合物である2,2-ジフェニルヘキサメチルトリシランの光反応においても複数の反応経路のうち、非共鳴2光子励起によりケイ素の2価化学種であるシリレンが高選択的に生成し、捕捉剤存在下で対応する付加体が高収率で得られることを見出した。非共鳴2光子励起によるこのような高い反応選択性の発現はKashaなどにより確立された従来の励起状態の緩和過程の描像を根本から変える極めて興味深い現象であるが、この現象には化合物の“隠れた"励起状態、すなわち2電子励起状態が密接に関与しているものと考えられる。 2電子励起状態のエネルギー準位は一般に2光子ケイ光の強度の波長依存性により求められる。実際、α,ω-ジフェニルポリエン類などのケイ光性化合物の2電子励起状態に関する系統的な研究はMac Clainらによりなされている。しかしながら、上記のシス-スチルベンのケイ光量子収率が低いので2電子励起状態のエネルギー準位を求めることは従来法では困難である。そこで、申請者は非共鳴2光子励起光反応の効率の励起波長依存性により2電子励起状態のエネルギー準位を求めることを試みた。実際、この方法によりシス-スチルベンの2電子励起状態は最低励起状態のやや高エネルギー側に存在していることが確認された。2,2-ジフェニルヘキサメチルトリシランについても同様な実験を行ったところやはり最低励起状態のやや高エネルギー側に2電子励起状態の存在が確認された。このように反応効率の波長依存性により2電子励起状態のエネルギー準位を調べる方法は化合物のケイ光量子収率に依存しないという利点を有するため2電子励起状態のエネルギー準位を求める新しい手法となり得る。
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