研究概要 |
真核生物にはミトコンドリアと色素体という独自の遺伝情報系を持ったオルガネラが存在する。これらのオルガネラは独自の遺伝情報系を持っているため、その起源は原核生物であったと考えられている。現在、高等動物のミトコンドリアゲノムと高等植物の色素体ゲノムの全塩基配列が決定されている。また、色素体の祖先であると考えられているシアノバクテリアのゲノムの全塩基配列も決定されつつある。しかし、原核生物のゲノムと高等生物のオルガネラゲノムの間にはゲノムサイズやコードされている遺伝子の種類と数が大きく異なり、オルガネラゲノムの進化については推測の域を出なかった。本研究では、もっとも原始的な生物の一つである原始紅藻Cyanidioschyzon merolaeのミトコンドリアゲノムと色素体ゲノムを解析することによって、オルガネラゲノムの進化を考察した。 今年度は、C.merolaeの色素体ゲノムのtufA(タンパク質伸長因子Elongation factor Tu遺伝子)及びその近傍をクローン化し、その塩基配列約12kbpを決定した。この領域には、rpl23,rpl16,rps17,rpl14,rpl24,rpl5,rps8,rpl6,rpl18,rps5,secY,rpl36,rps13,rps11,rpoA,rpl13,rps9,rpl31,rps12,rps7,tufA,rps10がコードされていた。種々の生物で塩基配列が知られているtufAをアミノ酸配列に翻訳し、この配列に対してほかの生物で知られているアミノ酸配列とホモロジー検索を行った。すると、この遺伝子はラン藻のtufAともっとも相同性が高かった。また、ここにはリボゾームタンパク質がクラスターを形成していたが、これらのリボゾームタンパク質は他の色素体やラン藻のリボゾームタンパク質と非常に相同性が高かった。これらの結果は、色素体がラン藻起源であったことを示唆している。
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