本研究では、薄膜トランジスターや太陽電池デバイスに用いられている水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)薄膜の初期成長過程を、原子レベルでの評価が可能なX線光電子分光法(XPS)、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて解析し、表面反応の理解および制御を行った。 a-Si:H薄膜の作製において、シランガスを水素ガスで希釈し、グラファイト基板上の初期成長観察を行い、水素希釈率により初期成長モードが劇的に変化することを明らかにした。水素ラジカルにによるグラファイト基板表面でのピニングサイト(核形成サイト)の形成とa-Si:Hの核形成の競争反応というモデルにより初期成長を説明した。さらに、プラズマ発光分析によりピニングサイトの形成には水素ラジカルが関与することを示した。a-Si:H堆積前にグラファイト基板表面を水素プラズマで処理すれば、均一な被覆のa-Si:H薄膜を得ることが可能であることを予想し、その考えが正しいことを確認した。 以上の結果をもとに、プリカーサー(薄膜前駆体)のマイグレーションとピニングサイトの概念を組み合わせた表面反応モデルを構築した。さらにピニングサイトの存在を明らかにするため、水素プラズマ処理したグラファイト基板表面を超高真空STMを用いて観察し、3から7nmの電子状態の異なる領域が存在すること、処理時間の増加にともないその密度が増加することを確認した。 グラファイト基板上の成長は堆積初期より島状成長を行い、少なくとも50nm堆積した後も初期成長の影響が残るが、水素プラズマ処理した表面では、堆積初期より均一な被覆のa-Si:H薄膜が形成されている。これらの結果から、実際のデバイスにおいて電子活性な領域の成長モードを制御するためには、初期成長から制御する必要が有ることを指摘した。
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