研究概要 |
我々は普段特に意識することなく歩行を行っているが、平地と階段,また,階段歩行の中でも昇段と降段では力学的に大きな差異があると予想される.この力学的な特性を明らかにすることは,下肢疾患の療法や,義肢の設計に加えて,ロボット工学や人間工学への応用という面からも重要であると考えられる.本研究では,実験とモデル解析を用いてその力学的特性を考察した. 実験装置には,2台の大型床反力計の片方に木製の5段の階段が搭載されており,平地から階段への力学的な遷移特性を測定することができる.本研究では以下のような事柄が明らかになった. 1.平地歩行と階段歩行の境界付近では,主に進行方向成分に両方の特性が混在するなどの過渡的な特性が観測された.また,体重心速度の大きさは,歩幅の違いにより,平地部分と階段部分とでは異なっていた.この違いは歩調(一分間あたりの歩数)が大きくなるほど顕著でり,平地部分と階段部分を連続して歩行する時,速度の調整は主に平地部分で行われていることがわかった. 2.階段昇降中の歩行一周期分の体重心と作用点の運動について調べると,進行および鉛直方向の加速は主に両足支持期に行われること,進行方向の作用点軌跡は両足支持期間での揺動が大きいことなどがわかった.また,被験者間のばらつきは平地歩行よりも大きいが,同じ被験者では歩調が異なっても同様の特性がみられるなど,被験者個人の特性が顕著になっている例が観察された. 3.階段の登り始め,降り終わりでそれぞれ歩行開始・停止を行った場合の各関節に加わるモーメントを,一剛体と無質量の足からなるモデルを用いて計算を行った.その結果,階段歩行と平地歩行を比較すると,支持脚では股関節の横方向回りに,振出脚では階段歩行開始時の膝,足首の横方向回りに特性の違いが見られた.
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