研究年度前半には、目的の基盤となる柱廊建築の最大の形態的特徴である「開放性」を直感的な見かけによる定住的な判断ではなく、定量的に示すことができる指標として、正面列柱と柱間の寸法から与えられる「開口度」を導入し、その統計的性質を、より厳密なプロポーションをもつ神殿と比較することにより、柱廊建築の開放性についての分析を行った(成果は北海道東海大学紀要芸術工学部15号に発表)。ただしここで用いた開口度はファサードを立面図として2次元的に扱っており、最終目的のみとつである歩行という動きの中で認識される開放性を直接的に示すものではないので、それを考える指標を3次元シミュレーションを通して探究していく予定であり、そのためにアテネのアゴラ地形モデル、安定期に入った紀元前200年頃のアゴラの建築物のモデリングを行っており、現在も継続中である。また、ウォークスルーのシミュレーションを行うこと、建築を単体としてではなく群として扱うこととの関連、あるいはオーダーの特徴的形態(とくに柱頭形状やフルーティングなど)の作り込みの程度から、モデリング精度の検討をモデリングと同時にすすめている。これに関する具体的な方法は現在のところ見つかっていないが、いくつかの可能性を考えている。現在は動きを駒撮りショットの連続と考えることができるので、ファサードにおいて面として見える部分と隙間として見える部分の視野の中での面積比をファサードとなす角度を変数として扱って定量化する方法を検討中である。また、今のところアゴラ安定期の紀元前200年頃の状態を中心にモデリングしているが、むしろ変化の激しい時期を複数モデリングして、同じ視野からのショットを用いて変化要因を探ることも開放性の認識に重要だと考えられるので、紀元前400〜300年頃の状態のモデリングも開始している。
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