研究概要 |
結晶形によって溶解速度あるいは体内での作用効果が異なることもあり、医薬・食品業界では多形(不安定晶と安定晶の析出)が問題となっている。本研究課題では、この不安定晶を得るための回分晶析操作法の提案を目的として、不安定晶の種晶添加系における安定晶の核発生機構について検討した。モデル物質としてL-グルタミン酸(L-Glu)を対象とした。L-Glu結晶にはα形(不安定晶)とβ形(安定晶)がある。 まず攪拌槽内におけるα晶の成長過程におけるβ核の発生の待ち時間(τ_β)を種々の操作条件(過飽和・攪拌速度)で測定し、ブランク実験の結果(τ_<β,blank>)と比較したところ、いずれの過飽和度でも、τ_<β,blank>>τ_β、となった。この差はα種晶によって、“構造の異なる"β核の発生が促進されていることを示している。この原因を説明するために“新しい"核発生機構を提案した。つまり、a種晶の界面近傍に、αとβ核の中間体(溶質分子の集合体、胚種)が存在する。この胚種がゆらぎによって臨界径に到達すると始めてαとβの核となる。胚種→α核、β核の比率は過飽和比と界面エネルギーの兼ね合いで決まると考えられる。 さらに、冷却式の回分晶析実験を行った。回分であるので溶液濃度(過飽和度)、温度は、当然経時的に変化する。通常の核発生理論でいえば、これらの変数は核発生速度に対して大きく影響する。しかし、結果はこれを覆すものであった。つまり、β核の発生はこれらの操作変数に影響されずに、αの2次核発生に追従してβ核が発生した。複雑な回分晶析過程においても前掲の"新しい核発生"機構が成立している。また、ここで発生するβ核はαの種晶中に取り込まれることも分かった。 以上の結果より、α晶を優先して晶析するにはα晶の2次核発生さえ抑制できれば、β晶の核発生も極力抑制できることがわかった。つまり、αの2次核発生の以前に核の溶解操作あるいは、核発生の原因ともいえる結晶の衝突を抑制する操作(静置系)が推奨される。
|