好熱菌と常温菌の枯草菌とを遺伝的組み替え体を得るため細胞融合を行なった。その結果両者の融合株と思われる株が得られた。この融合株は55度以上で生育が見られ好熱性、枯草菌の薬剤耐性を有していた。 そこで好熱菌、枯草菌のそれぞれの菌体内、外蛋白質に対する抗体を作製しウェスタンブロットを行なったところ、融合株の菌体内蛋白質は好熱菌のそれに酷似していたが、菌体外蛋白質はいつくかにおいて好熱菌と相同性を持ち、またいくつかは枯草菌と相同性を持っていた。つまり、ここで得られた融合株は親株両者の遺伝子の発現をどちらも行なっていると考えられた。 つぎに生育温度を変え、熱誘導性を調べた。常温の50度および好熱温度の60度では顕著な差が見られなかったが、70度に温度を上昇させると顕著な蛋白パターンの変化が見られた。つまり高温であっても枯草菌の遺伝子の発現が見られるが、70度になると発現、構造形成になんらかの制約を受けることが示された。 さらにアミラーゼ活性からはこの遺伝子スイッチイングを示すものが得られた。融合に用いた好熱菌と枯草菌はどちらもアミラーゼを分泌し、それらの分子量は電気泳動的にたやすく区別出来る。これを踏まえて融合株の分泌酵素を調べると2種の分子量の異なるアミラーゼを分泌していた。そして、それらは親株それぞれのアミラーゼと分子量が一致していた。つまり、アミラーゼ遺伝子が保存され、生育温度が50度のときはこの2つのアミラーゼが分泌されるが、60度以上に温度を上げると常温菌のアミラーゼの発現が止められた。つまり、融合株は温度に応じて好熱菌、常温菌の発現を制御していることが示唆された。 rpsとAmyはそれぞれ12度、29度と位置が決められているので、これを基にすると少なくとも枯草菌のゲノムの5%が融合株に組み替えられたといえる。
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