溶液中の荷電物質を導電性高分子中に取り込み/放出することにより近傍濃度を可逆的・一時的に変化させることに基づく本方法は、細胞が本来有するホメオスタティックな制御メカニズムと共通する点があると言うことができる。本研究年度においては、本方法により酵母(Saccharomyces cerevisiae)のリン酸濃度依存性PHO遺伝子調節系を利用した酸性ホスファクターゼ発現制御と、神経興奮伝達物質であるグルタミン酸放出制御の二つの系について研究を行った。 酵母酸性ホスファクターゼ発現系では、導電性高分子への印加電位によってコントロールを行うリン酸濃度の化学定量を行い、同時に酸性ホスファクターゼの発現量を酵素タンパク質量、酵素活性、発現mRNA量のそれぞれから評価を行った。その結果、本方法により定量的な遺伝子発現の誘導が行えることが明らかとなった。 グルタミン酸の放出制御の系では、神経興奮入力のデバイスとして応用を目的とするため、放出プロセスの実時間による評価が必要となる。そのため、電気化学Quartz Cristal Microbarance(ECQCM)上に導電性高分子の重合を行い、重合過程、ドープ(取込)過程、脱ドープ(放出)過程のそれぞれのプロセスについて定量評価した。その結果、短い応答時間で15〜40μgの範囲に制御したグルタミン酸の放出が行えることが明らかとなった。 以上のことから、本研究で提示する導電性高分子を用いた方法が発酵系内の細胞代謝制御、および神経興奮の入力の方法論として有効なものとなり得ることが明らかとなった。
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