半導体超微粒子は、量子サイズ効果により粒径の減少に伴ってエネルギー構造が変化することが明らかにされている。本研究ではCdS超微粒子から粒子表面に直接結合したビオロゲン化合物への光誘起電子移動反応を行い、電子移動速度に及ぼす超微粒子の粒径の効果を調べた。 ビオロゲン基を有するチオールを用いて粒子表面を修飾したCdS超微粒子を、犠牲剤として1mMトリエタノールアミンを含むDMSO/ピリジン溶液に均一に分散させ、窒素雰囲気下でレーザー光(355nm)を照射したところ、CdS超微粒子から粒子表面のビオロゲン基への光誘起電子移動反応が観察され還元生成物であるラジカルカチオンの生成がみられた。超微粒子中の光励起電子による表面ビオロゲン基の還元反応およびこれにより生成したラジカルカチオンの粒子中の正孔による再酸化反応がともに擬一次反応速度に従うと仮定し、ラジカルカチオン生成の経時変化から各々の速度定数を求めた。結果はいずれの粒径を有する超微粒子を用いた場合でも表面ビオロゲン還元反応の速度定数よりも正孔によるラジカルカチオン再酸化の速度定数が大きくなった。さらにビオロゲンの還元反応速度定数が超微粒子の粒径にほとんど依存せず一定であるのに対し、正孔による再酸化速度定数は粒径の減少とともに増加した。また犠牲剤濃度を1mMから10mMに変えて同様の実験を行ったところ、ラジカルカチオン生成速度定数はほぼ同じであったが再酸化の速度定数はいずれの超微粒子を用いた場合も大きく減少した。従って、ここで得られたビオロゲン再酸化の速度定数の粒径依存性は、超微粒子の粒径の減少に伴って1粒子当たりに吸着している犠牲剤分子の数が減少することを考慮すると、粒径の小さい粒子ほど犠牲剤による正孔捕捉が起こりにくくなったためにビオロゲンラジカルカチオンの再酸化の割合が増大したことによると考えられる。
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