耐冷性評価の確立を目的に、これまで茎葉部の低温反応を指標とする耐冷性の評価を行ってきたが、本年度はこれに加えて、種子根の発育状態や冠根の発生程度など、根部の低温反応を指標とする耐冷性の評価を試みた。その結果、根部に示される耐冷性は、茎葉部に示される耐冷性と弱いながらも有意な相関を示し、初期の耐冷性イネの選抜は、観察容易な茎葉部の耐冷性について行えばよいと考えられた。また、根部においても茎葉部と同様、幼苗の発育ステージに伴う耐冷性発現の変化が認められた(日本育種学会第88回講演会において発表)。 つぎに、茎葉部の耐冷性に基づいて、日本国内で育成されたジャポニカ型水稲70余品種の耐冷性を評価したところ、北海道地域および東北地域で育成された品種では、耐冷性が多様で極強の品種が多く認められたが、北陸以西の地域で育成された品種では多様性に乏しく、極強の品種はみられなかった(日本育種学会第89回講演会において発表予定)。また、mutator(突然変異誘発遺伝子)によって誘発された固定型突然変異80余系統の耐冷性を評価したところ、耐冷性に系統間差が認められ、mutatorを用いても耐冷性の強化が可能と考えられた。 一方、耐冷性獲得機構の生化学的解析を進めるために、カラムクロマトグラフ、薄層クロマトグラフおよびガスクロマトグラフを用いて、少量試料(種子、根および葉)からリン脂質および糖脂質を抽出し、同定する方法を検討した結果、1グラム程度の試料があれば各脂質を構成する脂肪酸の分子種を明らかにし得ることが判明した。
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