摂食直後及び絶食後にラットを低酸素(7.6%O_2)に暴露したところ、血中のガストリン濃度が上昇することから、低酸素暴露が胃壁細胞に直接または間接的に作用することでガストリン産生を誘発することを我々は見い出した。本研究は、低酸素暴露によるガストリン産生の原因を検討することを目的とした。 低酸素暴露によって胃酸分泌促進因子であるガストリン濃度が上昇していたので、胃内pH、胃液量及び胃酸分泌量を測定した。その結果、3時間低酸素暴露したラットでは、大気環境下のコントロールラットに比べて、胃内pHは高く、胃液及び胃酸分泌量は低下していた。この際、低酸素暴露ラットの血中ガストリン濃度は高かった。そこで塩酸を胃内に投与後、低酸素に暴露してところ、ガストリン濃度はコントロールラットと同程度になった。これらの結果から、低酸素暴露は胃酸分泌を阻害し、そしてその阻害が正のフィードバック機構を通してガストリン放出を促進することが判明した。上記の現象はストレス時の応答に類似しているので、ストレス時に脳内で産生され、胃酸分泌を阻害するインターロイキン1βとコルチコトロピン放出因子の関与を検討するため、各々のアンタゴニストを脳内に投与後、低酸素に暴露した。その結果、胃酸分泌抑制は両アンタゴニストによって阻害されなかったことから、低酸素暴露による胃酸分泌抑制にこれらの因子が関与していないことが判明した。次に低酸素暴露による胃酸分泌の阻害に交感神経系が関与しているかを検討するため、α-遮断剤(phentolamin mesylate)とβ-遮断剤(dl-propranolol hydrochloride)の混合液をラットに筋肉注射後、低酸素に暴露した。その結果、胃内pHはコントロールラットと同程度となり、胃液量及び胃酸分泌量はそれぞれコントロールラットの43%と34%に回復した。これらの結果から、低酸素暴露による胃酸分泌阻害に交感神経系が関与していることが明らかとなった。
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