研究概要 |
本萌芽的研究の目的は,イヌの弁別課題を学習させて音高低(周波数)弁別閾値ならびに反応動作の筋電図・事象関連電位を測定することであった.このうち,事象関連電位については方法論的な問題により実施できなかったが,その他については下記の点が明らかになった. 1.オペラント条件付けの実験台を自作し,神経学的に正常で年齢の異なるイヌ2頭(A:4歳,B:8歳)に短音を弁別刺激とした挙手動作のオペラント条件付けを行った.条件付けの完成は、反応率がチャンスレベルの50%以上を有意に示したこと,および単純反応時間として測定した挙手動作の筋電図の反応潜時(Premotor time(PMT))の変動係数が一日の試行データ内において15%以下になったことに基づき決定した.オペラント条件付けの進展と供にPMTは短縮してほぼ一定の値に近づき,変動係数も減少した.条件付けの完成には,イヌAで25日,イヌBで29日を要し,完成期におけるPMTはイヌAで277.8〜305.7msec,イヌBで157.7〜177.1msecを示した.また,刺激強度に対する回帰直線からPMT200〜275msecをもたらす音圧強度を算出して鰓得た等PMT曲線は,ヒトの等聴力曲線に相当すると考えられた. 2.各イヌにおいて聴力図を作成した後,聴覚閾値+10dBSPLの純音を用いた周波数変調音を用いて周波数弁別閾値を測定した.イヌAの周波数弁別閾値は,1kHz以上の周波数ではウェーバー比0.2〜0.3%でほぼ一定であった.しかし,0.5kHzおよび0.2kHzにおけるウェーバー比はそれぞれ0.8%および3%となった.この1kHz付近での閾値の変曲点はヒトでも観察されており,イヌの周波数弁別のシステムもヒトに類似したものであると推測される.また,イヌBにおいては,すべての周波数においてイヌAに比べてウェーバー比の上昇が認められた.
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