ストレス蛋白と熱耐性の関連を解明するための新しい試みとして、マウス乳ガン由来のFM3A細胞から分離された温度感受性変異株tsFT101細胞に着目した。この細胞は、33℃では正常の細胞分裂がおこり増殖するが、39℃では減数分裂は正常におこるものの、細胞質分裂が特異的に阻害されるため、細胞が多核化するという温度依存性の特性を有する。 マウス乳ガン由来のFM3A細胞およびその温度感受性変異株であるtsFT101細胞を材料とし、37℃および39℃に設定した2器の炭酸ガン培養器(CO_2 incubator)を用いて、33℃〜39℃の各温度にて培養した細胞を45℃へ一定時間暴露し、その後37℃に戻し、その細胞の生存率をコロニー・フォーメーション・アッセイにて測定し、細胞レベルの温熱耐性(温度感受性)の指標とした。同様の温度暴露処理をした細胞から蛋白を可溶化、抽出し、10%SDS-PAGE、抗HSP70抗体を用いたウエスタン・ブロッティングを行い、HSP70の誘導を検討し、以下の結果を得た。(1)tsFT101細胞の増殖能は37℃をピークとし低温側、高温側ともに低下する、(2)33℃から38℃までは、多核化はほとんど見られず39℃ではじめて多核化が生じる、(3)tsFT101細胞の温熱耐性はその親株であるFM3A細胞よりも低く、39℃培養tsFT101細胞は特に熱耐性が低い。(4)45℃30分間の加温(前処理)により温熱耐性が誘導されるが、39℃培養tsFT101細胞では、ほとんど温熱耐性が誘導されない。(5)さらに、39℃培養tsFT101細胞では同様の加温処理によるHSP70の誘導もわずかである、(6)37℃、39℃いずれの培養温度条件下においても色素排泄試験で調べた生細胞率は95%以上であった。 tsFT101細胞では、親株であるFM3A細胞に比較し、前加温による熱耐性の誘導が乏しく、HSPの誘導も極めて少ないというの興味深い特徴が明かとなった。
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