研究概要 |
本課題では、神経細胞および神経膠細胞の増殖、分化とテロメア短縮現象の相関について、FISH(fluorescence in situ hybridization)法およびサザンブロット法を用いて研究した。最初に、ヒトおよびラットのリンパ球染色体標本を作製し、用いたプローブ(Van der Ploegより供与された)が分裂中期染色体のテロメアを正確に認識することを確認した。次に、ラット胎児(妊娠13,15,17,19,21日目)および成熟、老齢ラットの脳組織切片上でFISH法を行った。胎児脳における分裂増殖帯の神経系幹細胞と新生児大脳皮質の分化した神経細胞における、細胞一個あたりのテロメアの個数および染色強度には差異を認めなかった。また成熟、老齢ラットの大脳皮質における染色では、星状神経膠細胞の方が神経細胞より強い染色強度を示したが、染色像に年齢による変化は認められなかった。そこで、サザンブロット法によってテロメアの差異を検討した。ラット胎児脳より神経系幹細胞の培養および分化した神経細胞の培養を、また新生児ラットの大脳皮質より星状神経膠細胞の培養を行い、それぞれのDNAを抽出し、テロメア配列を切断しない制限酵素で処理した。サザンブロット法によって最長のテロメアの長さを比較したところ、神経系幹細胞は約33.5k bp、神経細胞は約31.5k bp、星状神経膠細胞は約34.5k bpであった。この結果より、神経系幹細胞から神経細胞に分化して増殖を停止する過程においてテロメアの短縮が認められるが、星状神経膠細胞に分化した細胞ではテロメアがむしろ延長していることがわかった。本研究結果より、神経細胞と関係膠細胞は同じ起源を持つにも関わらず、神経細胞にはテロメアを延長させる活発な機構がなく、星状神経膠細胞には何らかの機構が存在する可能性が示唆された。
|