造血抑制因子のTGF-βが細胞周期上のG1期での血液細胞の細胞休止にどのように働くかを解明すると共に小児再生不良性貧血ではTGF-βを介した負の細胞周期抑制機構に異常が存在するか否かを検討した。実験モデルとして我々はSKM-1細胞を用いた。SKM-1細胞は骨髄異形症候群(MDS)由来の細胞株であり、再生不良性貧血から白血病に進展する過程を細胞周期の観点から解析するのに適していると考えたからである。SKM-1細胞はサイトカインの非存在下で増殖可能であるが、GM-XCSFに対する反応性を保持しており、GM-CSFの刺激で増殖反応が増強された。一方、SKM-1細胞にTGF-β(25ng/ml-50ng/ml)を添加すると増殖反応は著明に抑制された。Propidium Iodide(PI)法による細胞周期の解析を行ったところ、このTGF-βによる増殖抑制はG1期における細胞周期停止によることが明らかとなった。さらに、SKM-1細胞にGM-CSF(20ng/ml)存在でTGF-βを添加しても細胞増殖抑制は観察されず、細胞周期停止も見られなかった。 従来の報告では正常骨髄血では、GM-CSFの存在下でもTGF-βは細胞増殖抑制作用を示しており、我々の実験事実はMDSおよび再生不良性貧血ではこれら増殖因子と増殖抑制因子との相互作用に異常が存在している可能性を示しているものと考えられた。このことは、再生不良性貧血やMDSの患者にG-CSFやGM-CSFなどの増殖因子を過剰に投与することは、TGF-βなどの増殖抑制因子による細胞周期停止を阻害し、ひいては、白血化へと導く可能性を示唆しており今後さらなる解析が必要と思われる。
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