研究概要 |
申請者は3mMリウチムを5週間一日二回皮下投与したラットの大脳皮質において、プロテインキナーゼC(PKC)の各サブタイプ別の分布をイムノブロットを用いて調査した。血中リチウム濃度は0.781±0.401mM/lと有効範囲内にあった。α,β,γ-PKCの分布は、リチウム長期投与後には変化は認められなかった。しかし、ε,δ-PKCは、リチウム投与後に細胞質成分では減少し、膜成分で増加していた。さらに、粗シナプトゾームにPDBu,Ca^<2+>を添加し、PKCを活性化した結果では、α,γ,ε,δ-PKCのPDBuによる転移はリチウム投与後、明らかに抑制されていた。β-PKCのみPDBuによる転移は対照群と比較してほぼ同程度であった。リチウム投与後のCa^<2+>による転移は、α,β,γ-PKCともに対照群と比較して変化は認められなっかた。よって、Ca^<2+>による情報伝達系はリチウム長期投与後変化していないと考えられる。しかし、PDBuによるPKCの転移はリチウム投与後抑制されていたので、イノシトールリン脂質系の情報伝達は抑制されている可能性を示唆した。 次に膜成分で増加したε,δ-PKCによる内在性蛋白質のリン酸化がリチウム長期投与後どのように変化しているかを検討した結果は、43Kのペプチドのリン酸化が、明らかに対照群と比較してリチウム投与後増加していた。この43KのペプチドはGAP-43と考えられた。そこで、リチウム長期投与後、GAP-43を用いたイムノブッロトを施行した。その結果では、GAP-43(43K)が対照群と比較して2倍に増加していた。免疫沈降法によりリン酸化されたGAP-43を測定した結果、リチウム長期投与後、同様に2倍に増加していた。 GAP-43はプレシナプスに存在し神経細胞の神経伝達物質の放出を調節する重要な蛋白質である。リチウム長期投与はε,δ-PKCを活性化し、細胞質から膜へ移行させ、GAP-43をリン酸化する事により、プレシナプスからの神経伝達物質の分泌を調節すると考えられる。そのため過剰な刺激が伝達されなくなる可能性がある。このメカニズムが躁うつ病の予防効果に重要であると考えられる。
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