研究概要 |
目的:断眠が言語連想実験に与える影響 方法:(A)対象:ICD-10診断によって精神科疾患を有しない18才から25才の被検者12名(男性9名、女性3名) (B)断眠:被検者を男性3名、女性1名の3群に分け、9時から2日目の21時まで実験室に置き,第1日目の17時から翌朝9時まで,各群について1)自然に入眠させる;2)断眠させる;3)実験期間中,日光との接触を遮断した上で断眠させた。 (C)それぞれの場合について,第2日目の朝9時から2時間ごとに17時まで計5回の言語連想課題を以下の要領で行わせた。(D)言語連想実験:言語連想実験の基本は,被験者に対して以下の方法でプライム刺激,ターゲット刺激となる単語を提示し,プライム刺激の影響のもとにターゲット刺激に対する判断を行わせ,その判断に要する時間と正解率とが,各刺激の性質によってどのように変化するかを見るものである。先行研究の結果を踏まえ,プライム刺激としては名詞のカテゴリー(動物,乗り物,感情,など)を,ターゲット刺激としてはそれらのカテゴリーに属する(属さない)個別の名詞(犬,車,悲しみ,など)を、判断課題としては,ターゲットがプライムで提示されたカテゴリーに属するか否かの判定を用いた。カテゴリーは具体的なものと抽象的なものの2系統を用意した。結果:1)具体・抽象のカテゴリーともに、断眠の程度が高いほど(第1群から3群に移るにつれて)過包含の傾向が生じた(5回の測定の平均値)。特に断眠の2群と入眠群の間には有意差があった。2)反応時間は断眠の程度が高いほど有意に遅延した(5回の測定の平均値)。3)5回の測定の中では、完全断眠群についてのみ、経時的に有意の反応時間の遅延、有意ではないが過包含の傾向の増大が認められた。考察:1)過包含は精神分裂病の急性期の思考障害の特徴とされてきたが、同疾患に伴う睡眠障害と、それに基づく意識障害によっても引き起こされている可能性が示唆された。日光との接触を断った群において特に影響が大きかったことから、今後の課題として、特にサーカディアンリズムの障害との関係を探求する必要がある。2)反応時間の遅延は陰性症状としての思考障害、すなわち応答潜時の増加、思考内容の貧困と関係する可能性がある。これが断眠と相関することは、慢性期の施行障害についても、睡眠リズムとの関係を考察する必要を示唆している。
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