研究概要 |
エリスロポエチン受容体(EPOR)には,mRNAの選択的スプライシング機構によって複数の異なる受容体が存在する。完全長型(F型)、可溶型(S型)、細胞内領域欠損型(T型)の三種類である。このうちF型とT型とが生理的に発現している受容体のほとんどを占めている。F型受容体からは増殖・分化・アポトーシス抑制シグナルなどが伝達されることが知られている。T型はF型と共存することによってF型からのこれらのシグナル伝達を阻害する作用を有しており、赤血球産生調節機構に深く関わっている可能性が大きい(中村等、Science 257: 1138-1141,1992)。T型受容体をコードするmRNAでは、F型ではスプライスアウトされているイントロン7がスプライスアウトされずに残存しており、これによってイントロン7の内に終止コドンが現れる。イントロン7のスプライシングには特異的な調節機構が存在し、それがF型とT型の発現を調節しているものと考えられる。Ba/F3細胞にイントロン7を含むEPORのmRNAを発現させると、約半分のmRNAからは普遍的因子の作用でイントロン7がスプライスアウトされるが、残りは何等かの細胞特異的阻害因子によってスプライスアウトを免れた(中村等、Science264: 588-589,1994)。Ba/F3細胞より抽出した核蛋白とmRNAとを反応させた際のスプライスの程度と、Ba/F3およびHeLa細胞からの核蛋白をいろいろな比で混在させてmRNAと反応させた際のスプライスの程度とでは、有為差は検出されなかった。今後さらにいくつかの赤血球系細胞株を用いて、同様な実験を試みていく予定である。
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