ヒト肝細胞増殖因子(hHGF)は、1984年発見後、様々な生理的役割が発見された。その中で肺はHGF供給源の一つであり、HGFが肺胞II型上皮細胞の増殖を促進することや、肺の細気管支や肺胞上皮細胞が常に種々の原因により傷害され再生を繰り返すことから、肺の再生におけるHGF関予について検討する必要があると考え今回の実験を行った。1 ヒト肺線維芽細胞(MRC-5)をディスク上で培養した後、申請者らが、新しく開発した潅流式培養システムを用いIL-1の刺激によるMRC-5のHGF分泌様式を経時的に培養上清を採取し、ELISA法で検討した結果、HGFの増加は、一定速度の増加ではなく分泌速度の変化を伴う波状の増加であると判明した。更に短時間のIL-1の刺激において上記の変化(46時間以上)を認めることにより、HGFが炎症等が治まった後もなお傷害に対する修復に係わることが示唆された(BBA.1995)。 2 IL-1刺激後のMRC-5内におけるHGFのmRNAの変化は、6時間、10時間、12時間と時間と共に増加し、その後無刺激レベルに戻った。新しく開発した潅流式培養システムを用いた場合のHGFのmRNAの変化については現在検討中である。 3 血中HGFレベルが肺の傷害と修復の指標となるか否かについて検討するために更に、肺癌患者20人を対象に手術前後の血中HGF濃度を経時的に測定し比較検討した。術後、24時間、3日目に高値を示す傾向にあった。また、術後人工呼吸器離脱困難例や再挿管例などの重症例において高値を示す傾向にあった。実際には、肝硬変、c型肝炎、肝障害、腎機能低下などの合併症を有する患者も多く肺疾患以外の関与も考えられ、また血中HGF濃度の個人差も大きいため、純粋な肺の傷害と修復の指標とするためには症例数を重ね、更なる検討が必要と思われた。また、基礎実験においてIL-6と分泌様式が異なったことや、IL-1以外のサイトカインの関与も明らかになったため、IL-1、IL-6などの他の炎症に係わるサイトカインの血中濃度の変化も同時に検討することが必要と思われ、現在HGFとともに検討中である。
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