網膜芽細胞腫や悪性黒色腫などの眼内腫瘍の保存的療法として、遺伝子治療が注目されている。本研究ではこの可能性を検討するため、上皮増殖因子レセプター(EGFR)に結合後エンドサイトーシスされると特異的なモノクローナル抗体(B4G7)を、ポリリジンを介してDNAと結合させた複合体"イムノジーン"を用いて、EGFR発現細胞に選択的に遺伝子を導入する方法を試みた。B4G7抗体およびそのFab断片を、それぞれβガラクトシダーゼ(β-gal)遺伝子と結合したイムノジーンを作製し、EGFRを過剰産生する培養偏平上皮癌細胞(A431)を対照として、培養網膜芽細胞腫細胞(Y79)に対するβ-gal遺伝子導入を検討した。Fabイムノジーンでは、A431への導入効率がB4G7抗体イムノジーンよりも数十倍優れていた。このFabイムノジーンを用いてY79および正常網膜色素上皮細胞への遺伝子導入を試みたが、両細胞のEGFR発現量が細胞あたり約10^4個と低いために、β-gal遺伝子の導入・発現は認められなかった。さらに、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HS-TK)遺伝子を腫瘍細胞に導入し、その後ガンシクロビル(GCV)投与して、腫瘍細胞を選択的に排除する方法を検討した。A431については、数%の細胞にHS-TK遺伝子を導入すれば、by stander効果により、ほぼすべての細胞が死滅した。しかしY79および正常網膜色素上皮細胞では、有意な殺細胞効果を認めなかった。一方、EGFRを比較的多く発現している悪性黒色腫細胞(G361)について、同様の実験を行った。イムノジーンによるβ-gal遺伝子導入・発現はA431の1/10程度に観察された。HS-TK遺伝子を導入した場合には、有意な殺細胞効果を確認した。したがってイムノジーン法は、眼内腫瘍、特に悪性黒色腫に有効で、生体内ターゲッティング可能な遺伝子療法として期待される。
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