研究概要 |
顎口腔機能異常(TMD)の発症や筋痛の発現には,咀嚼筋の疲労が密接に関連している。それゆえ,咀嚼筋の疲労を客観的に評価することは,TMDの診断や治療効果の判定上意義深い。筋の疲労の評価は,もっぱら筋電図周波数分析を用いてなされ,疲労時には周波数分布の中心的位置が低域へ移行することがよく知られている。しかし,この現象はTMDの治療時のオクル-ザル・スプリントや咬合再構成によりもたらされる顎間垂直距離(OVD)の増加によっても生まれることから,TMD患者での筋の疲労の病態をより正確に捉えようとすると,従来の周波数分析では著しい困難が生じていた。 本研究では,咀嚼筋の疲労時の筋電図周波数分布をOVDの影響を排除して評価する可能性を明確にする目的から,咬みしめ持続による実験的な筋疲労と挙上板装着によるOVDの増加により生じた周波数分布の変化様相について,従来の周波数分布の中心的位置を表す指標値(平均周波数)に加えて分布の形態的特徴を示す新たなパラメータ(歪度,尖度)を評価できる解析システムを構築し,検討を行った。 その結果,1)すべての被検筋で,咬みしめの持続とOVDの増加によって平均周波数は減少し,歪度ならびに尖度の値は増加した。3)平均周波数と歪度ならびに尖度との間には,分析区間およびOVD別にそれぞれ高い負の相関が存在した。さらに,分析区間別の回帰直線はOVD別のものと比較して有意に大きい勾配を示し,平均周波数の減少に伴う周波数分布の形態変化やその低域への移行過程は咬みしめの持続とOVDの増加では異なることが明らかになった。 以上より,新たなパラメータを導入した本解析システムを用いることにより,筋の疲労やOVDの変化などで生じる周波数分布の変動をその形態から識別し得ることが明らかとなり,筋疲労をより明確に評価する可能性を示唆できた。今後は,TMD患者への応用を試みる予定である。
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