研究概要 |
顎関節内障による骨のリモデリング(変形性関節症)が顔面成長に与える影響を経年的に検討するための基礎データ収集を行なった. 各被験者について,顎関節可動域検査(下顎頭運動軌跡)を行い,画像検査として多層断層X線写真,側面ならびに正面位頭部X線規格写真を,また磁気共鳴映像法検査から円板の転位度と変形の有無について検討した.被験者の形態分析結果と関節病態(Wilkes分類)を比較し,下顎頭の成長障害が顔面成長に与える影響について検討した結果,以下の所見を得た. 1.円板前方転位を有した関節では約3割に下顎頭の形態変化を認め,非復位性円板転位の関節では約7割が骨変形を有していた. 2.下顎頭運動軌跡による顎関節の器質的病変に対する敏感度は0.79,特異度は0.59,診断精度は0.70であった. 3.関節円板の軽度転位群では正常群と比較して前方関節空隙が有意に大きく,また転位度の増大とともに円板変形は顕著となったが,下顎頭は正常群に近似した位置を呈するようになった. 4.下顎頭長軸角と関節病態の重篤度には有意な正の相関を認め,下顎頭比との間には有意な負の相関が認められた. 5.病態の重篤度と下顎下縁平面の開大,下顎骨の後退,下顎枝高の過小などの形態的特徴との間に有意の相関が明らかとなった. 以上より,器質的病変を有するものの機能的に適合した関節では,関節可動域の機能的評価による病態診断が十分ではないため,高精度画像検査が不可欠であること,顎関節の退行性病変が明らかな症例においては,顎顔面骨格の形態形成に何らかの影響を及ぼしていることが示され,顎関節内障を有する若年不正咬合患者の歯科矯正治療や外科矯正治療においては,顎顔面骨格の成長変化に加え,顎関節病態の進行に応じた形態変化に十分注意することの重要性が認識された. 今後は,これらの被験者の顎顔面形態を経年的に追跡調査してゆく予定である.
|