ヒト血漿より精製したインター-α-トリプシンインヒビター(ITI)およびヒト尿より精製したウリナリートリプシンインヒビター(UTI)について、それぞれのコンドロイチン硫酸鎖とペプチド鎖の結合領域を単離した。調製した結合領域について、FAB-MS分析、コンドロイチナーゼなどの分解酵素による消化物のHPLC分析、構造既知の結合領域オリゴ糖とのコクロマト分析などから、それらの構造を決定した。また、UTIの結合領域については大量に調製が可能であったため、600-MHz ^1H NMR解析を行って厳密に構造を確認した。 解析の結果、ITIでもUTIでも以下のような六糖構造を介して、コンドロイチン硫酸鎖がコアタンパク質に結合していることが判明した: -4HexAl-3GalNAc (4-sulfate) β1-4GlcAβ1-3Gal (4-sulfate)β1-3Galβ1-4Xylβ1-O-。この次硫酸化六糖は珍しいGal(4-Sulfate)構造を含んでいる。この構造の報告例はSwarmラットコンドロサルコ-マとクジラ軟骨のコンドロイチン硫酸からのみであり、今回の研究で軟骨だけではなく血漿中や尿中のコンドロイチン硫酸にも存在することが証明できた。 しかも、単離された結合領域はこのジ硫酸化六糖のみであり、他の構造をした結合領域はITIやUTIにおいとは存在しないことも分かった。軟骨組織のコンドロイチン硫酸からは様々な構造の六糖が単離されており、今回の結果とは非常に対照的である。コンドロイチン硫酸の糖-タンパク質結合部位における構造の多様性は、各糖残基の修飾構造に依存しており、キシロースの2位のリン酸化、ガラクトースの4位または6位の硫酸化が報告されている。各々の修飾構造は、異なった機能を果たしているのかもしれないし、また異なる機能を持つ糖鎖のサブクラスを反映しているのかもしれない。
|