小腸粘膜や腎尿細管上皮細胞における薬物の膜輸送過程は、薬物の吸収並びに排泄を支配する要因となる。小腸や腎皮質におけるジペプチド様薬物の輸送機構に関しては、これまで、膜小胞系や培養細胞系を用いた解析が行われた結果、複数の輸送系が関与していることが示唆された。本研究では、ウサギ小腸ジペプチド輸送担体(rbPEPT1)のアミノ酸配列情報を基に、ラット由来のジペプチド輸送担体のcDNAをクローニングし、その実体並びに輸送特性について検討を加えた。 1.rbPEPT1との相同性を示したDNA断片を用い、ラット腎cDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、710個のアミノ酸をコードする全長約2.9kbのcDNA(rPEPT1)を得た。rPEPT1のアミノ酸配列はrbPEPT1と77%の相同性を示し、ハイドロパシー解析から12本の膜貫通領域を持つものと推定された。rPEPT1とmRNAの発現は小腸に多く、腎皮質部においても認められたが他の臓器では検出されなかった。合成rPEPT1 cRNAを注入した卵母細胞において、両性イオン型のcephradine、アニオン型のceftibutenの取り込みがいずれもH^+勾配に依存して上昇したことから、rPEPT1は荷電状態の異なるペプチド様薬物を輸送することが明らかとなった。 2.1.と同様の方法を用い、729個のアミノ酸をコードするcDNA(rPEPT2)を得た。rPEPT2のアミノ酸配列はrPEPT1と48%の相同性を示した。rPEPT2 mRNAの発現は、腎、脳、肺、脾臓で認められたが、小腸では検出されなかった。さらに、合成rPEPT2 cRNAを注入した卵母細胞において、抗癌剤bestatinの取り込みがH^+勾配依存的に促進された。 ラット臓器には少なくとも2種類のジペプチド輸送担体が発現し、ペプチド様薬物の吸収に関与することが明らかとなった。
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