本研究の目的は、薬物動態を侵襲の少ない状態で評価できるマイクロダイアリシス法(MD法)を、経眼適用時における薬物角膜透過挙動のin vivo評価法としても新たに適用することである。今回は、角膜移植後の拒絶反応を防ぐ目的で臨床使用されている免疫抑制薬シクロスポリン(CYA)の効率的な点眼用製剤の処方設計を目的に、点眼用CYA製剤適用後の前房水中薬物動態の検討をMD法により行った。最初に、前房水内MD法の手技を、実験動物に家兎を用いて確立した。すなわち、家兎をウレタン麻酔下、注射針で角膜尖刺し、すばやく前房水内へリンゲル液潅流中の透析プローブを挿入、調製した点眼用CYA製剤を眼に装着したリザーバー内に適用し、透析液を連続的に採取した。透析液中のCYA濃度の定量は、蛍光偏光免疫測定法または高速液体クロマトグラム法により行った。まず、病院製剤として繁用されている2%CYA油性点眼液を、常法に従いオリーブ油を溶剤として用い調製し、点眼後の薬物動態を検討したところ、透析液中のCYA濃度は、最初の透析フラクションで最も高く(1000ng/ml)、その後緩やかに減少することがわかった。この結果、2%濃度のCYA点眼液適用後の前房水中CYA濃度は、CYAの有効濃度(150ng/ml)より十分高く、本製剤のCYA濃度を下げることも可能であることが示唆された。現在、オリーブ油を溶剤とした油性点眼液については、眼に対する刺激性が問題となっている。そこで、刺激性の軽減を目的に、新たに脂肪乳剤を溶媒としたCYA乳濁性点眼液の調製を試みた。その結果、脂肪乳剤単独では、わずかの濃度のCYAしか可溶化できなかったが、可溶化剤としてハイドロキシプロピーβ-シクロデキストリンを添加することにより0.4%濃度のCYA乳濁性点眼液の作成が可能となった。0.4%CYA乳濁性点眼液を適用した場合の透析液中CYA濃度は、最初の透析フラクションで最も高く(200ng/ml)、その後適用2〜3時間は50ng/ml程度を維持することが示された。本実験条件下での透析プローブからのCYA回収率が約20%であったことを考慮すると、0.4%濃度のCYA乳濁性点眼液適用後も、前房水中のCYA濃度は有効濃度を維持することが示唆された。今回、前房水内MD法の手技を確立できたことによって、眼内CYA濃度を直接対象に点眼用CYA製剤の最適処方設計の検討を行うことができた。
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