本研究は、衣食住遊にわたる生活文化全般の変化、とくに「五感における嗜好の変容」に対して、生活情報論的なアプローチから考察することを目的として実施された。 20世紀を代表する五感の嗜好は視聴覚を中心に展開し、ト-キ-映画に代表されるメディア体験を生み出してきた。これに対して、味・嗅・触覚は劣等感覚として孤立化・局所化させられてきた。21世紀のメディア体験は、この味・嗅・触の劣等感覚をトリガーとする形で変容し、視・聴・味・臭・触の五感が統合された「多重的共感覚」へ移行するものと予測される。この予測を、生活美学・生活情報論的に検証した。 とりわけ自分自身の五感センサーで生活情報を受信し、自分なりの感性で加工・編集・創造し、メッセージを発信していく才能が問われる「感性化」の動向に注目した。 いささか逆説的ではあるが、「情報化」「マルチメディア化」が進めば進むほど、必然的に「感性化」傾向もまた、より一層急速に促進されていくものと思われる。おそらく21世紀は、国民一人ひとりが「一億総ア-ティスト」「一億総映画監督」「一億総工芸家」「一億総多趣味人」として、家をベースにした小型・簡便な生活情報機器を駆使しつつ、多彩な生活文化を開花させる時代となる点を論証した。 具体的には、アンケートと文献調査による各種「五感」データを、マンパワーによる入力・解析にたよることなく、高速・高性能のパソコンと解析・グラフィックソフトを駆使することによって、感性情報処理の試みをおこない、おおむね成功をおさめた。
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