これまで、母音のホルマント周波数の対数比を座標軸とする平面を用いて母音の分布および挙動を調べた。この平面における各母音の分布は正規分布をなすと仮定した場合には、共分散行列を基にして、等確率識別楕円を構成することが出来、この楕円の長軸および短軸を微分幾何学上の計量として解釈するとこの平面は非ユークリッド平面であるといえる。この計量からこの平面に曲線座標を構成することによって母音の挙動は測地線、すなわち平面上の最短経路に沿っていることを示した。 上記の背景を踏まえ、本計画では特徴パラメータとしてスペクトルを用い、あるパラメータ空間において母音および半母音の挙動を推定し、これに基づき母音と半母音を識別・分類することを計画した。具体的には、音声データのラベリングに基づき、母音定常部に線形予測分析を施し、係数から得られるスペクトルを離散化し、40次元ベクトルとする。この全ての点に対して判別分析を用いて3次元空間に射影する。この3次元空間内の各母音の分布は正規分布をなすと仮定し、この分布から得られる共分散行列を基にして計算することにより等確率楕円面を得る。上記と同様に、この楕円面の軸を微分幾何学上の計量として解釈することによりこの空間を非ユークリッド空間であると解釈できる。もし、母音わたり部の挙動がこの非ユークリッド空間の最短経路を通っているならば、この空間をユークリッド空間へと変換することにより、その最短経路は直線をなすはずである。 現在のところ母音の挙動が変換したユークリッド空間において、ほぼ直線となることを明らかにした。今後は半母音の挙動を求め、母音との挙動の違いをもとにして母音と半母音の識別・分類を行なっていくつもりである。
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