本研究では第一に、問題の特徴を抽象的に表現した図、つまり問題のイメージ・スキーマを自動描画し、それらをユーザに提示することでユーザの類推的問題解決を促進することを目指したシステムISTを試作した。本システムは、研究代表者が数年来開発してきた類推に基づく問題解決器の技術と、最近研究が盛んな制約に基づくグラフィクスの技術とを融合した上に、さらに問題解決に有効なオペレータを抽象的に可視化するという、今回研究代表者が新たに開発した技術をも導入することで開発することが可能となった。本研究では第二に、試作されたシステムISTが実際にユーザの問題解決を促進し得るかどうかを実験的に検証した。すなわち、いわゆる放射線問題を例にとり、放射線問題に類似しているとシステムが判断したいくつかの既に解かれた問題の解と問題記述とを抽象的に可視化したイメージ・スキーマをユーザに提示した場合とそうでない場合とで、ユーザの問題解決のパフォーマンスに差異が見られるか否かを認知心理実験により確かめた。その結果、システムの描き出すイメージ・スキーマを提示した場合の問題解決のパフォーマンスの方が提示しない場合のそれよりも、有意に高いということがわかった。すなわち本システムは、ユーザの類推的問題解決を促進する可能性が高いということを示唆していると結論できる。さらにその理由を、先行研究との比較によって議論した。その結果、適切で抽象的なイメージ・スキーマは可塑性、すなわち一つのイメージ・スキーマが異なる問題と結びつけられて考えられると異なるイメージとして解釈され得るという多義性が、ユーザの類推的問題解決を促進している可能性が高いということが明らかになった。 今後は本システムの拡張を行なうとともに、逆に抽象的な概念の学習の支援に、具体的なイメージの可視化を利用することも計画している。
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