研究概要 |
放射線被曝は、ヒトに乳癌を誘発する。原爆被爆者集団の疫学調査では、被爆時年齢が低いほど乳癌発癌リスクが高く、0-4歳時被爆の発癌リスクが最も高い。0-4歳の乳腺は未分化で数百の乳腺幹細胞が存在するのみであるが、発癌リスクは成人の約3倍となる。このことは、被曝によりイニシエ-トされた細胞数と発癌リスクとが直接相関するのではなく、被爆した細胞の放射線感受性が最も重要であることを示している。 a)放射線誘発乳癌モデルを、遺伝的に乳癌発生頻度の異なる3系統ラットで確立し、化学発癌と比較した。自然発生乳癌の頻度は、全系統ラットとも低かった(0〜10%)。MNU誘発乳癌の頻度は、COP系が11.8%に対し他は100%であった。^<60>Coガンマ線誘発乳癌の頻度は、3系統に差なく約30%であった。 b)遺伝的乳癌高発系Wistar/Furthラットで、放射線誘発乳癌の年齢依存性を比較した。1,2ヶ月齢時照射は、短い潜伏期で乳癌を誘発。下垂体腫瘍の併発なし。6,11ヶ月齢時照射は、長い潜伏期で乳癌を誘発し、下垂体腫瘍を併発。ラット1,2ヶ月齢の乳腺は、ヒトで10-15歳に相当し、乳腺幹細胞の分裂増殖期で、放射線感受性が高い。ラット6,11ヶ月齢は、ヒトで45歳以上に相当し、分化を終了した乳腺細胞の放射線感受性は低く、発癌には、下垂体腫瘍から分泌されるプロラクチンのプロモーションを必要とする。 c)Copenhagenラット低年齢時放射線被曝群に、良性腫瘍(adenoma)を観察した。その一部をin vivo移植系に供し、その発育を観察する移植実験でadenomaからcarcinomaへの悪性転換がみられた。これは、ラット乳癌発癌で、adenoma→carcinomaの多段階発癌モデル作成の可能性を示唆する。
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