本研究では、エクダイソン刺激により分泌されたカテプシンL前駆体がセンチニクバエ成虫原基の分化に関与する作用メカニズムを知るために、本年度は、細胞外基底膜に存在するカテプシンL基質蛋白の構造、局在を解析することを目的とした。その結果、予想をはるかに上回る以下の研究実績を得た。 1、分子量210kDaと200kDaの2種の蛋白をカテプシンL基質蛋白として精製することに成功し、それぞれの蛋白に特異的な抗体を得た。そして、蛍光抗体法により、2種のカテプシンL基質蛋白は、成虫原基組織を取りまく基底膜に存在することを明かにした。また、イムノスクリーニング法により、2種のカテプシンL基質蛋白をコードするcDNAを得た。さらに、 2、2種のカテプシンL基質蛋白が、幼虫の脳にも存在することを示した。そして変態期よるとこれらの基質蛋白が、成虫原基における場合と同様に限定分解されることを示した。この結果は、変態期におこる脳の再編成にもカテプシンLが関与する可能性を示す。 3、カテプシンL前駆体が、前駆体同士が会合した2量体を形成していることを新たに見出した。そして。この会合には、前駆体のプロ配列部分が必要であることを示した。 ところで、カテプシンLの精製過程で、新規細胞増殖因子を発現した。すなわち、 4、精製材料として用いている胚細胞の培養上清中に、胚細胞自身に作用する細胞増殖因子が存在することを見出し、これを活性蛋白として精製後、cDNAクローニングを行った。すると、これまで同定されている如何なる細胞増殖因子とアミノ酸一次構造上類似性を示さない、分子量52kDaの新規細胞増殖因子であることが明かとなった。これは、活性蛋白として昆虫類から細胞増殖因子が精製された初めての例である。
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