研究概要 |
我々は原核生物では初めて細胞骨格様の構造体を観察することに成功した(1994 J. Bacteriol. 176:917-922)。この構造体はcafA遺伝子を過剰発現した大腸菌細胞内で見い出され、CafA蛋白質そのものによって形成される(1995 J. Cell. Biochem. 19A:114)。本研究は正常な大腸菌内でCafA蛋白質の機能を同定することを目指して研究を進めた。 cafA遺伝子は定常期に5倍以上発現量が増えるが、定常期特異的な発現調節因子RpoSには依存しないことを明らかにした(1993/1994 Science Progress 77(3/4):253-264)。CafA蛋白質はMg^<2+>イオン依存的にGTPに高い結合活性を持ち、またMg^<2+>イオン存在下で重合し、沈殿する活性を持つことを見いだし、さらにこの重合活性がGTP,ATPにより活性化されることを見いだした。以上の結果はCafA蛋白質がMg^<2+>依存的にGTPに結合し骨格様の高次構造を形成する性質を持つことを示していると考える。 他方、我々はcafA遺伝子の近傍のmreB遺伝子の変異株mre129が不定形の形態異常を示すことを見いだした。MreB蛋白質のアミノ酸配列は真核生物の細胞骨格蛋白質アクチンと類似しており、アクチンを含む数種のATPaseと共通の構造を持つことが示唆されている。キネシン、ミオシンなどと類似性を持つCafA蛋白質と、アクチンと類似性を持つMreB蛋白質が染色体上でごく近傍にコードされていることも生物学的意味を示唆していると考えられる。mre129変異株ではATPaseに共通するアミノ酸配列のごく近傍にアラニンからプロリンへのアミノ酸置換変異を持つことが明らかとなった。 MreB蛋白質の機能について、細胞骨格様の構造形成やその制御に機能している可能性を考慮する必要があると考えられる。
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