発生遺伝学という系統だった遺伝子検索法の適用により、ショウジョウバエの初期発生研究が分子生物学による解析の対象として大きく前進した。本研究はこれに応える形で進行したものであり、突然変異誘発法によって得られる(遺伝子型-形質)の組み合わせ、mRNAあるいは蛋白質の可視化技術の胚への適用にる遺伝子転写量の経時的変化から、位置情報の決定に機能している遺伝子ネットワークシステム内の相互作用を推定・モデル化によって理解・解析することを目標とした。 [1]胚の前後軸に沿っての周期的体節構造を指定するペアルール遺伝子の発現領域をモデル化する作業は、分子生物学によるプロモータ断片からの解析に相補的な、領域全体としての入出力関係をニューラルネットによって予測することを目標とした。観測データが非常に疎であることから予測は汎化性をどのように保証するかに焦点が集まる。本研究では入力因子の濃度が低い領域ではその因子に対して親和性の高い結合部位が、逆に高濃度領域では低親和性結合部位が遺伝子発現調節に関わっているという入出力写像レベルでの経験則を満たすファジ-ニューロ型のネットワークを構成するプロシ-デュアを開発・実装し、これの応用としてのプロモータレベルからの調節領域モデル作製計画が、米国Mount Sina医科大のReinitz博士との共同研究として、團生命科学国際基金のフェロ-シップに採択された。 [2]胚の背腹軸に沿っての勾配的位置情報を指定する情報伝達系の経路をモデル化する作業は、エピスタシスという遺伝学の概念を定量的に再定義し、これを用いて相互作用の因果関係を再構成することに成功した。生化学による相互作用の解明に併せて、そこに現れる作用の連鎖を機能的に理解することが現時点での課題である。
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